2012年06月21日

工藤信彦著 『わが内なる樺太』


副題は〈外地であり内地であった「植民地」をめぐって〉。

著者は1930(昭和5)年、樺太の大泊町生まれ。14歳まで樺太で過ごした方。

戦前は外地でも内地でもない曖昧な扱いを受け、戦中は対ソ連の和平工作の切り札として考えられ、戦後は失われてしまった樺太の歴史と今を、多くの資料に当りながら丁寧に描き出している。

著者は樺太を〈すでに無く、もはや無い〉ものと考える。今さらそこに戻りたいと思っているのでもない。しかし、樺太が歴史の本から消え、語られることさえなく忘れられてしまうことは許せないのである。

その理由は次の一文に明らかであろう。
樺太は他者にとっては辺境であったとしても、父母や私にとっては生きた大地であり、ぬくもりを分けた郷土でもあったのだから。

著者の両親をはじめとした多くの人々が40年にわたって築き上げた生活や文化。それを「無かったこと」にはできない。そのために、著者は樺太を調べ、樺太(現サハリン)を訪れ、樺太について書き続けているのである。

その姿勢に教えられることは非常に多い。

2008年11月20日、石風社、2500円。

posted by 松村正直 at 00:52| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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