副題は〈外地であり内地であった「植民地」をめぐって〉。
著者は1930(昭和5)年、樺太の大泊町生まれ。14歳まで樺太で過ごした方。
戦前は外地でも内地でもない曖昧な扱いを受け、戦中は対ソ連の和平工作の切り札として考えられ、戦後は失われてしまった樺太の歴史と今を、多くの資料に当りながら丁寧に描き出している。
著者は樺太を〈すでに無く、もはや無い〉ものと考える。今さらそこに戻りたいと思っているのでもない。しかし、樺太が歴史の本から消え、語られることさえなく忘れられてしまうことは許せないのである。
その理由は次の一文に明らかであろう。
樺太は他者にとっては辺境であったとしても、父母や私にとっては生きた大地であり、ぬくもりを分けた郷土でもあったのだから。
著者の両親をはじめとした多くの人々が40年にわたって築き上げた生活や文化。それを「無かったこと」にはできない。そのために、著者は樺太を調べ、樺太(現サハリン)を訪れ、樺太について書き続けているのである。
その姿勢に教えられることは非常に多い。
2008年11月20日、石風社、2500円。