空つぽの審判台のやうな空あなたがわたしを見なくなつてから
米軍のコーラの壜を溶かせしと琉球ガラスの由来はありぬ
腰が浮く腰が抜けると秋の夜の稽古にわれが炙り出される
あたらしき道を覚えぬあたらしき道は病む父見舞ふ道なり
ウオッカといふ牝馬快走その夜のわたしの肌のやすらかな冷え
苔生えし目鼻に歯ブラシ当てながらわが家の小さき地藏を洗ふ
鮎の骨まつげのやうに残りたり暮れざるうちに終へし夕餉に
離陸する別れのつよさを繰り返し見てをり秋の空港に来て
飴なめて赤い舌や青い舌垂らして子らは祭りをあるく
地ビールは濁りのなかになつかしくかつ知らない人の味がするなり
「かりん」所属の作者の第5歌集。歌集名の「エクウス」はラテン語で「馬」のこと。
言葉の選びや比喩の使い方が的確で、場面や作者の心情がよく見えてくる。病気の父親を詠んだ歌や、ふるさと八戸をはじめ寺山修司、秋田、金瓶、恐山など東北に関する歌が多くあり、歌集の骨格を形作っている。
2首目は、沖縄の歴史を考えさせる歌。以前ベトナム旅行をした時に、コーラの空き缶を再利用した置物が、お土産に売られていたことを思い出したりした。
2011年9月25日、角川書店、2571円。