2012年06月20日

梅内美華子歌集 『エクウス』

空つぽの審判台のやうな空あなたがわたしを見なくなつてから
米軍のコーラの壜を溶かせしと琉球ガラスの由来はありぬ
腰が浮く腰が抜けると秋の夜の稽古にわれが炙り出される
あたらしき道を覚えぬあたらしき道は病む父見舞ふ道なり
ウオッカといふ牝馬快走その夜のわたしの肌のやすらかな冷え
苔生えし目鼻に歯ブラシ当てながらわが家の小さき地藏を洗ふ
鮎の骨まつげのやうに残りたり暮れざるうちに終へし夕餉に
離陸する別れのつよさを繰り返し見てをり秋の空港に来て
飴なめて赤い舌や青い舌垂らして子らは祭りをあるく
地ビールは濁りのなかになつかしくかつ知らない人の味がするなり

「かりん」所属の作者の第5歌集。歌集名の「エクウス」はラテン語で「馬」のこと。

言葉の選びや比喩の使い方が的確で、場面や作者の心情がよく見えてくる。病気の父親を詠んだ歌や、ふるさと八戸をはじめ寺山修司、秋田、金瓶、恐山など東北に関する歌が多くあり、歌集の骨格を形作っている。

2首目は、沖縄の歴史を考えさせる歌。以前ベトナム旅行をした時に、コーラの空き缶を再利用した置物が、お土産に売られていたことを思い出したりした。

2011年9月25日、角川書店、2571円。

posted by 松村正直 at 00:31| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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