まず目に付くのは「函館の青柳町」という地名の持つ力だろう。しかし、どんな地名でも良いわけではない。音読すればわかることだが、
「はこだて(AOAE)」 と 「あおやぎ(AOAI)」
の音が微妙に響き合っている。それが大事なのだと思う。さらに言えば
AOAEO AOAIOOO AAIEE
OOOOIUA
AUUAOAA
と、全体にAの音とOの音が多い。こののびやかな感じも、回想の懐かしさと愛しさを伝える大事な点だろう。要するに、この歌は音の響きが抜群に良いのである。その証拠に、この歌の四句と結句を入れ替えてみると、どうなるか。
函館の青柳町こそかなしけれ
矢ぐるまの花
友の恋歌
音の響きが全くダメになってしまう。もとの歌はA音が主調となって三句まで来て、四句目の「OOOO」で転調して、結句でまたA音に戻るという流れになっている。四句と結句は具体例を二つ並べただけのように見えながら、実は音の響きに重要な役割を果たしているのだ。
こんなふうに分析してみると、啄木は意外とテクニシャンだったということが、よくわかる。啄木は素朴な歌人であるかのように言われることが多いが、そんなに単純な話ではないように思うのだ。