1862年生まれの森鴎外から1886年生まれの石川啄木まで、12人の文学者を取り上げて、彼らの1905年の姿と、亡くなった年の姿を描いている。他のメンバーは、津田梅子、幸田露伴、夏目漱石、島崎藤村、国木田独歩、高村光太郎、与謝野晶子、永井荷風、野上弥生子、平塚らいてう。
なぜ、1905年なのか。
それは、「はじめに」の冒頭に書いてある。
日本の国民国家としての頂点は、一九〇五年五月二十七日である。
日本海海戦で連合艦隊がロシアのバルチック艦隊を破った日。そこに、著者は明治維新以降の日本が築き上げてきた国民国家のピークを見ている。まさに「坂の上の」ということだろう。
この本は文学者たちの伝記であるだけでなく、文学者たちの生涯を通して見た近代日本の歩みを描いた本でもある。1905年という年を設定することで、別々の人生を送った文学者たちの姿を横断的に眺めることができる。そして、そこから導き出されるのは
科学技術は進歩する。しかし、人間そのものは進歩しない。
という結論だ。冷静で身も蓋もない見方ではあるが、もっともだと思わせられる。
2012年5月10日、NHK出版新書、780円。