岡山には1993年4月から1994年9月までの一年半、住んでいたことがある。生まれ育った東京を離れて初めて一人で暮らしたのが、岡山であった。
当時のことは『現代短歌最前線 新響十人』(北溟社)収録の「岡山時代のこと」というエッセイに書いたことがある。
幸いなことに、女主人が一人でやっている不動産屋が「あなたはどう見ても悪いことはできそうにないから」と言って、一軒の貸家を見せに連れて行ってくれた時は涙が出そうなくらい嬉しかった。その木造の家は、道と道とが鋭角に交叉する角地に立つ三角形をした二階建てで、もとは老夫婦の住む煙草屋であったらしい。一階が三畳と台所・風呂・トイレ、二階が四畳半という間取りだった。二階へのぼる階段は、梯子と言った方がいいもので、老夫婦はその上り下りができなくなって引っ越して行ったのだと聞いた。「あなたは若いから大丈夫」と女主人は笑った。
今回18年ぶりに、その場所へ行ってみた。
岡山市富町1−9−9。
岡山駅の西口を出て、歩いて十数分である。