冬至より六十日目の対岸に欅は梢をけぶらせて立つ
永田和宏
「冬至より六十日目」という限定の仕方が目を引くが、これは多分、二十四節気の一つ「雨水」(2月19日頃)を指しているのだろう。雪が雨に変わり、寒さも峠を越す時期。葉を落とした欅の細い梢が、かすんだように対岸に見えている。
この歌の元になっているのは、おそらく岡部桂一郎の次の一首。
夏至すぎて第十一日目太陽はからすびしゃくの繁る上に来つ
岡部桂一郎『戸塚閑吟集』
「夏至すぎて第十一日目」は雑節の一つ「半夏生(はんげしょう)」(7月2日頃)を指している。からすびしゃくが別名「半夏」と言い、からすびしゃくが生える時期だから「半夏生」という名が付いたことを知っていると、この歌はいささか即き過ぎの気がしないでもないのだが。