副題は「ある北方少数民族のドラマ」。
ウィルタ(オロッコ)のダーヒンニェニ・ゲンダーヌ(日本名 北川源太郎)の足跡をたどったドキュメンタリー。ゲンダーヌの口述を元に、高校教師の田中了(ウィルタ協会事務局長)が記したもの。
ゲンダーヌは戦前の日本領樺太で生まれ、戦時中は陸軍の特務機関によって徴集され、北緯50度の日ソ国境付近で諜報活動に従事。戦後、スパイ幇助の罪により重労働8年の刑を言い渡されてシベリアに抑留される。
昭和30年に日本に引き揚げてきた後は、ふるさと樺太に近い網走に住み、日雇い労働で生計を立てる。日本政府に対して軍人恩給の支給を求めるものの、軍人としての召集ではなかったとして拒否されるなど、様々な苦難を乗り越え、やがてウィルタとしての誇りを取り戻していく。
何ともすごい本である。
日ソ両国間で翻弄され続けてきた少数民族の悲哀が、一人のウィルタの人生を通じて、まざまざと甦ってくる。そして、戦後になっても戦前と同じように続いた民族差別について深く考えさせられる。
もちろん、今から30年以上前に書かれた本なので、古くなってしまった部分もある。「連帯」「勤労人民」「抑圧民族」「歴史的必然」といった左翼的な言葉や考え方は、今では力を持たないだろう。
けれども、そうした運動を通じてこの本が生まれ、ゲンダーヌをはじめとした少数民族の人々の人生が記録されたことは、やはり特筆すべきことだと思う。本になって残されたことで、私たちは何年たっても埋もれた歴史を知ることができるのだ。
1978年2月20日、現代史出版会、1500円。
2012年04月24日
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