歌人の伊藤一彦と俳優の堺雅人の対談集。2009年10月31日〜11月2日の三夜にわたる対談が収められている。
二人はもともと宮崎県の高校の先生と生徒という関係で、卒業後に堺が伊藤の著書『あくがれゆく牧水』を読んだことをきっかけに、牧水との縁ができたらしい。
牧水の恋や生き方、歌の魅力をめぐる話を中心に、演技論、教育論など、幅広い話題が繰り広げられている。
特に印象に残ったのは、牧水の「あくがれ」は現実逃避とは違うという話。
堺 舞台や映画の製作現場も似たところがあります。現実を離れてフィクションを作る現場だけれども、そこに集う人間は現実の人間です。だから衝突もあるし、悪意も存在する。
伊藤 現実の人間関係から逃避して演劇や映画の世界に入ろうと思ったら、わい雑で煩さな人間関係の中に放り込まれ、「私、ダメ」という子がけっこういるんでしょう。
堺 純真な人ほど、そのギャップに耐えられないかもしれないですね。ユートピアみたいな関係性を期待していると、失望することになる。だけどそれって健全な集団だと思うんです。人がいて何かを作る以上、聖域なんてありえない。
まさに同感。
例えば、短歌の結社についてもまったく同じことが言えるだろう。
2010年9月10日、角川ONEテーマ21、781円。