2012年04月19日

N・ヴィシネフスキー著 『トナカイ王』


小山内道子訳。副題は「北方先住民のサハリン史」。

日本とロシア(ソ連)という二つの国の間で翻弄され続けてきた樺太(サハリン)先住民の歴史の記録。時代は、日本がロシア革命後の混乱に乗じて北樺太を占領した1920年から終戦後の1950年代までを描いている。

主人公は「トナカイ王」と呼ばれて日本領の南樺太で活躍した商人ドミトリー・ヴィノクーロフ。ヤクート人である彼は数百頭のトナカイを飼育して財をなしただけでなく、故郷の北シベリアのヤクーチア(現ロシア連邦サハ共和国)独立に向けて日本の支援を要請するなど、日本とも関係の深い人物であった。

専門的な学術書や個人的な思い出を記した本を除くと、戦前の樺太に関する本は非常に少ない。そんな中にあって、本書は今ではほとんど忘れられてしまった歴史に光を当てた貴重な一冊と言えるだろう。

この本の出版に至る経緯は平坦なものではなかったようだ。1994年に訳者が原著を読み、1996年に翻訳を完了した後も、出版社が見つからず、2005年になってようやく北海道大学の学内出版(非売品)として刊行。その反響を受けて、2006年に一般向けに出版されたのだそうだ。12年もの歳月をかけて出版にこぎつけた訳者と著者の尽力には、本当に頭が下がる。

2006年4月19日、成文社、2000円。

posted by 松村正直 at 00:48| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。