真中朋久歌集『重力』を再読する。
以前、読んだ時は気が付かなかったのだが、本歌取りというか、先行する歌を踏まえて作られた歌がけっこうたくさんある。こういうのを味わうのも、歌集を読む楽しみの一つ。
まつぶさに遂げむと思ふことのなしひとのながれのなかに汗冷えて
おそらくは知らるるなけむ一兵の生きの有様をまつぶさに遂げむ
宮 柊二『山西省』
この若者は吉川宏志を知らず
四十歳(よんじふ)になつてもひとを抱くものかと問ふ若ものよ まあ飲め
四十になっても抱くかと問われつつお好み焼きにタレを塗る刷毛
吉川宏志『青蝉』
滝のみづがもろともに引きおろしたる大気は顫へつつ吹き出づ
瀧の水は空のくぼみにあらはれて空ひきおろしざまに落下す
上田三四二『遊行』
桃の花の下照るところ腰まげて歩む嫗に行き先を問はれし
春の苑紅にほふ桃の花下照る道に出で立つをとめ
大伴家持(『万葉集』巻19‐4139)
これらは、いずれも有名な歌ばかり。
有名でない歌も含めると、もっとあるかもしれない。
いくらか怪しげなパクリかもしれません。焦点になるところは大きくずらすように心掛けてはいますが。
梨木香歩の物語の一場面を頂いたのもあります。「四十歳」は、たしか松村さんが以前コメントくださったと思いますが、詞書もパクリですね。
永田和宏『饗庭』
ですね。さらに、この歌も
屈(かが)まりて脳の切片(せつぺん)を染(そ)めながら通草(あけび)のはなをおもふなりけり
斎藤茂吉『赤光』
へと続いていく…。
松村さん、この歌をつぎのようにしましたが本歌どりといえるのでしょうか?
多摩川に銀の方舟ただよひてわれに乗れよと茫漠の夢は
語順やテーマの変化などが必要だと思います。