2012年03月06日

「塔」2012年2月号(その2)

真中さんの選歌後記に、「死者は歳をとらないから(本当か?)、そんなふうに思えることもある」という一文がある。自分で自分の文章に「本当か?」とツッコミを入れているのだが、この自問自答を読んで思い出すのは、次の一首。
死者が歳をとることがあるか成人した妹が夢にわれを打ちたり
               真中朋久『重力』

おそらく、妹さんは成人することなく亡くなったのだろう。その妹が、成人した姿で夢に現れて作者をひっぱたいたのだ。何とも痛烈な歌である。

真中さんはあまり自分のことについて語らない人なので、話を聞いたことはないのだが、歌を読んでいれば、真中さんには弟と妹がいて、弟は幼い時に、妹も成人前に亡くなっていることがわかる。
いもうとに恋あらざりし 白き衣をひろげて風になびかせてみる   『雨裂』
いくたびか死を拒みたるいもうとのその冬の日の窓の日ざしを
七年は父母の寝室に置かれありしまこと小さき弟の骨
妹の残したるものか仕舞はれて四半世紀経し衣を濯ぐ
弟妹の眠れる墓にその父母は入るのだらう丘をのぼつて   『エウラキロン』
三人のなかのひとりとしてわれは生き残りたり生きて長じたり   『重力』

これらの歌は、どれも歌集では別々のところにあって、ひっそりと置かれている。それをテーマにした連作が詠まれているわけではない。それでも、亡くなった者たちが常に作者の心の中にいることが、十分に伝わってくる。

posted by 松村正直 at 01:05| Comment(4) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど、と思いました。
こうやって示していただくと、
真中さんが毎日新聞で原発を「弟」に喩えていた
真の意味がよく分かるような気がしました。
Posted by 大辻隆弘 at 2012年03月06日 22:02
日立製作所は原子炉メーカーの一つですね。
今回の「工場の街」もそうですが、
真中さんが故郷を詠んだ歌には、独特の陰影があります。
Posted by 松村正直 at 2012年03月07日 01:11
古い作品にも言及していただき恐縮です。
「真の意味」とか言われると、ちょっとたじろぐのですが。
Posted by まなか at 2012年03月07日 12:43
ついつい三冊の歌集に読みふけってしまいました。
読み直すと新たな発見がいろいろあります。
Posted by 松村正直 at 2012年03月08日 00:10
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