「サバイバル登山」を実践する著者が、さらなる登山の形を目指して行き着いたのは「狩猟」であった。本書は「サバイバル登山」+「狩猟」という新しい登山のあり方の記録であり、著者の言葉を借りれば「四シーズンで私が撃ち殺し、食料にした八頭すべての話」ということになる。
サバイバル登山とは
電池で動くものはいっさい携帯しない。テントもなし。燃料もストーブ(コンロ)もなし。食料は米と基本調味料のみで、道のない大きな山塊を長期間歩く
という登山である。著者は、岩魚や山菜を食べながらこの方法で登山を続けてきたが、冬山での食料調達のために、鉄砲による狩猟を始めることになる。主に狙うのはシカだ。
シカを撃ち殺し、その肉を食べ、真冬の雪の中を3000メートルを越える山に登る。他人から見れば無謀としか思えないスタイルを貫く著者には、強い信念がある。それは生きていく上でフェアでありたいという思いだ。
実感がないのに、命を奪うのはアンフェアなことだと私は思う。
(撃ち殺した)二頭の鹿のことを考えると私に怠慢は許されない。
人としてちゃんとケモノを殺してちゃんと食べたいと思ったからだ。
著者は決して人格高潔な人間ではない。見栄をはったり、ずるいところがあったり、気弱になったりする普通の人間である。サバイバル登山に対する異論もあるだろう。著者に対する毀誉褒貶も様々だろう。けれども、著者の信念とその行動力に対してだけは、誰も文句を言えないような気がする。
生きるということは、もしくは食べるということは、殺すことである。自分の命を肯定するなら、われわれは殺しを肯定するところからはじめなくてはならないのだ。
2009年11月25日、みすず書房、2400円。