久しぶりにすごい本を読んだ。
全792ページ。圧巻である。
室蘭本線・小幌駅、札沼線・新十津川駅、留萌本線・増毛駅など、北海道内の無人駅を起点に、その土地の歴史や風土、そこに暮らす人々の生活に迫ったノンフィクション。全7章。
長期間にわたって継続的な取材と聞き取りを行い、「地方」の現実をなまなましく描き出している。漁業、農業、自然保護、観光、公共事業、限界集落、地方自治・・・そこに挙げられた問題は、取りも直さず現代の日本が抱えている問題の縮図に他ならない。
最初から大きな話をするのではなく、小さなことを丹念に調べることによって、次第に大きな話が見えてくる。この方法を徹底して行っていることが、本書の特徴であろう。
わからないことを訳知り顔に書いたりしないし、物事をわかりやすく単純化したりもしない。もつれ合った糸を一本一本手作業でほぐしていくように、じっくりと書き進めている。その姿勢が何よりも信頼できる。
人間の持つ愚かさ、悲しさ、醜さ、偉大さ、逞しさ、愛しさ、といったものに、何度も心を揺さぶられた。人が生まれて、そして死んでいくというのは、すごいことだとあらためて思う。
この本を書くのに、著者は8年という歳月を要している。
(…)とにかくこの8年、私は寝ても覚めてもこの本を完成させることだけを考え続けていた。この本一冊のために、一度もさわやかな朝食を口にしなかった。
「おわりに」に書かれたこの一文に、私は深く頭を垂れたいと思う。
2011年10月31日、北海道新聞社、2500円。