2012年02月09日

節分草

二月九日朝霜ゆるむ下ぐれに節分草はしろ花かかぐ
             石田比呂志『琅かん(王+干)』

第4歌集『琅かん』(1978)の一首。「かん」は「王」+「干」であるが、機種依存文字なのでひらがなにしておく。このあたりがワープロの不便なところ。

「琅かん」は硬玉の名前を表すほか、美しい竹という意味もある。「春香をふふめる風を孕むゆえ琅かんは鳴る竹の林に」という歌があるので、この歌集では後者の意味だろう。

節分草はキンポウゲ科の多年草で、節分の頃に白い五弁の花を咲かせる。カタクリなどとともに、開花後2〜3か月で一年の生活サイクルを終える典型的な早春植物である。

この歌は厳しい寒さの緩んできた時期に、地面に節分草の花を見つけて、春の訪れを感じているもの。「下ぐれ」はちょっと目に付きにくいような感じだろうか。林床のような場所かもしれない。

「二月九日」という日付が入っているのが面白い。日記の記述のようにさり気なく、それでいて確かな事実といった印象を与える。もちろん、これが「二月三日」では、節分と符合しすぎて逆効果だろう。

石田比呂志と言うと、すぐに反骨や無頼、豪放磊落といったイメージが思い浮かぶが、実はこうした繊細な歌も意外とたくさん残しているのである。

posted by 松村正直 at 20:13| Comment(0) | 日付の歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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