二月九日朝霜ゆるむ下ぐれに節分草はしろ花かかぐ
石田比呂志『琅かん(王+干)』
第4歌集『琅かん』(1978)の一首。「かん」は「王」+「干」であるが、機種依存文字なのでひらがなにしておく。このあたりがワープロの不便なところ。
「琅かん」は硬玉の名前を表すほか、美しい竹という意味もある。「春香をふふめる風を孕むゆえ琅かんは鳴る竹の林に」という歌があるので、この歌集では後者の意味だろう。
節分草はキンポウゲ科の多年草で、節分の頃に白い五弁の花を咲かせる。カタクリなどとともに、開花後2〜3か月で一年の生活サイクルを終える典型的な早春植物である。
この歌は厳しい寒さの緩んできた時期に、地面に節分草の花を見つけて、春の訪れを感じているもの。「下ぐれ」はちょっと目に付きにくいような感じだろうか。林床のような場所かもしれない。
「二月九日」という日付が入っているのが面白い。日記の記述のようにさり気なく、それでいて確かな事実といった印象を与える。もちろん、これが「二月三日」では、節分と符合しすぎて逆効果だろう。
石田比呂志と言うと、すぐに反骨や無頼、豪放磊落といったイメージが思い浮かぶが、実はこうした繊細な歌も意外とたくさん残しているのである。