2012年01月08日

本田一弘歌集 『眉月集』(びげつしふ)

本田一弘
青磁社
発売日:2010-06-01


『銀の鶴』に続く第二歌集。第16回寺山修司短歌賞受賞。

会津という風土、国語教師という仕事、そして近代文学に対する愛着。この三つが互いに結び付きながら、作者の歌の背景を形作っているように思う。萩原朔太郎、斎藤茂吉、室生犀星、石川啄木、正岡子規、宮柊二、佐藤佐太郎、草野心平など、数多くの文学者が、歌のなかに登場する。
あゝ馬のかほに似てゐる蝉蛻(ぬけがら)の一つひつしに樹にしがみつく
そのかみの詩人の咽を塞ぎたる葡萄の熟(みの)る秋の来むかふ
携帯電話といふ語聞くたび思ひ出づ「女囚携帯乳児墓」を
といった歌を読むと、当然、茂吉の〈税務署へ届けに行かむ道すがら馬 に逢(あ)ひたりあゝ馬のかほ〉〈むらさきの葡萄(ぶだう)のたねはとほき世のアナクレオンの咽(のど)を塞(ふさ)ぎき〉〈「青葉くらきその下かげのあはれさは「女囚携帯乳児墓(ぢよしうけいたいにゆうじのはか)」〉といった歌を思い出す。そういう楽しみ方もできる歌集である。
味蕾とふつぼみをふふむ舌の上にまろばしてゐる春の夜の酒
この春の一年生に早苗とふ清しき名持つ少女がふたり
氏の名前あなぐらむして遊び居りたましひやけろたましひやけろ
闇濃ゆくなりゆく葉月、朝顔に終はる草花帖のまぶしも
一本の管としてある人間を吹かばいかなる音色するらむ
エノラゲイよりひろしまを見たる人死にたりと聞く霜月ゆふべ
古書店の棚高くある赤彦の全集見るたび購はむとおもふ
秋ぞらが眠たくなつて午後三時おやぐもこぐもひるねする雲
おおははのなづきにしろき花ふれりことのはなべて喪はしめて
大根の煮えてゆく音ふつふつと人死にてゆくふゆのゆふぐれ
2010年6月1日、青磁社、2500円。

posted by 松村正直 at 22:00| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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