この本を読むと、短歌に対する私の考えの多くが河野さんに教わったものであることを、あらためて感じる。
短い詩型に理屈は要らない。理屈を超えたことばを、身体が掴む。そして、身体で作る。(…)そういう時のことばは不思議なもので、現在の自分の身体と時間の、ずっと先の方を走っている。あるいは、生身の身の丈を越えている。
自分のことは自分がいちばんよく分かっていると思うのは一面の真理かもしれないが、短歌においてはこれはあてはまらない。自分の歌の良し悪しが自分ではなかなかわからない。他人の歌なら一読たちまち評価できるのに。こうした話を生前の河野さんから何度聞いたことだろう。その声が、文字の間からありありと響いてくる。
2011年12月10日、白水社、1800円。