仏文学者で大の昆虫好きとして知られる著者が、日本各地の虫や動物を訪ねまわった旅行記。雑誌「旅」に12回にわたって連載されたもの。西表島でリュウキュウウラボシシジミを見たり、戸隠で地蜂(クロスズメバチ)の巣を探したり、萩でハンミョウを捕まえたりと、やはり虫の話が多い。
虫の愛好家のことを「虫屋」と呼ぶのは知っていたが、その中でも「蝶屋」「トンボ屋」「カミキリ屋」「カメムシ屋」など、専門(?)によって細分化されていることは初めて知った。そんな虫屋の世界も時代とともに変化しているらしい。
電話、ファックス、インターネットと車が、昆虫採集と、虫屋の人間関係を変えてしまったようである。産地の情報、それも「採集マップ」というようなものが簡単に手に入る。便利になればなるほど味気なくなっていくのは、どの世界でも同じことなのだろう。
虫の話以外にも、各地を旅する著者の示唆に富む話がたくさん出てくる。例えば、宮崎県の城下町飫肥を訪れた際には、薩摩藩という大藩との関係に苦労した飫肥藩の歴史を踏まえて、飫肥藩出身の小村寿太郎について次のように述べる。
十九世紀の半ば以来、欧米列強の脅威を感じるようになった日本という国全体が、まさに飫肥藩の立場に立ったわけで、小村は明治日本の外交官としては、まさに最適な教育を受けてきた、と言えるのではあるまいか。小村寿太郎はドラマ「坂の上の雲」にも出てきたが、なるほど薩長出身者とは違う苦労があったのだろうと、あらためて思ったのであった。
2011年11月25日、中公文庫、720円。