2011年11月30日
中沢新一 『僕の叔父さん 網野善彦』
中沢新一が叔父(父の妹の夫)網野善彦との出会いから、亡くなる前の最後の電話に至るまでの日々を綴ったもの。単なる思い出話ではなく、父の中沢厚(民俗学者)も含めた彼らの思想的な交流が、『蒙古襲来』(1974)『無縁・公界・楽』(1978)『異形の王権』(1986)といった網野史学の形成に大きな影響を与えたことを描き出している。
特に、1968年の佐世保のエンタープライズ寄港阻止闘争で、学生たちが機動隊に投石している映像を見て、中沢厚が子どもの頃の石投げ合戦(菖蒲切り)を思い出し、さらにそこから網野が中世の「飛礫(ひれき)」へと話を進めるあたり、わくわくするような話の展開である。
中沢も言及しているように、人類学において「母方のおじ―甥」の間に結ばれる冗談関係は「権威の押しつけや義務や強制は発生しにくい」し、「精神の自由なつながりの中から、重要な価値の伝達されることがしばしばおこる」のである。ここから、ジャック・タチ監督主演のフランス映画「ぼくの伯父さん」や寅さんと満男の関係を思い出してもいいのだろう。
2004年11月22日、集英社新書、660円。
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