「イギリスはおいしい」など数々のエッセイや小説で知られる作者が、専門の書誌学について記した本。書誌学とは
書物それ自体をオブジェクトとして「比較と観察」を重ねていくことによって、一つ一つの書物を正確に「認識」していく学問と説明されている。
主に江戸時代の本について、それが写本か刊本か、活字か整版か、いつ頃のもので、どのような来歴を持っているのかなど、こと細かに調べて記述していくのである。こう書くと地味で退屈そうに聞えるが、それが滅法おもしろい。まるで推理小説を読んでいるかのようなのだ。
他にも、欧米や中国と違って、日本の本に必ず奥附が付けられているのは江戸時代以前からの伝統を踏襲したためという話にもなるほどと思った。
明治維新でなにもかもが一変し、書物の形も、和装本から洋装本へ、紙も和紙から洋紙へ、印刷様式も木版から活版へと、根こそぎ変化したように見えるけれど、それは表面上のことで、もうすこし深く書物の底流にまで眼光を及ぼすときには、案外と変わっていない部分が多いことを知る。2000年3月15日、講談社文庫、743円。