言葉、思考、他者、無限、論理、未来などをめぐって書かれた19篇の文章が収められている。発表媒体や長さの異なる19篇であるが、決してばらばらな印象はなく、それぞれが関係を持ちながら、全体で大きなひとつの流れとなるように編集されている。
この本を読むと、哲学というのは、数学、科学、言語学、論理学といったさまざまなジャンルにまたがるように存在しているのだということがよくわかる。広い意味で言えば、短歌を考える際にも関係してくるのだろう。読みながら随分と考えさせられ、示唆を受けることの多い一冊であった。
相手の発話やものごとに対する見方を、私の手持ちの論理空間に翻訳する形で理解するのであれば、そこには他者は現れてこない。他者は、私自身が変化することによってのみ、他者でありうる。
あるいは「自我」。比喩で言うならば、写実的な風景画においてそれを描いた画家自身は描かれてはいない。でも、画家の視線はその風景画において示されている。(…)同様に、何ごとかが語り出されるとき、それを語り出している「私」は語りえないけれど、「私」は他のことがらを語り出すそこにおいて示されている。
「過去を振り返る」ことと「過去に立ち返る」こととを区別しよう。過去を振り返るとは、現在までの世界の一部として過去を捉えることであり、過去に立ち返るとは、過去のその時点までが生成しているすべてであるものとして、それゆえそれ以後はまだ生成していないものとして、その過去世界を捉えることである。これらの文章も、それぞれ、短歌の読み、私性、そして短歌史を論じたものとして読めるような気がする。
2005年7月25日、産業図書株式会社、2200円。