2011年11月02日

「短歌」2011年11月号(その2)

角川短歌賞の次席作品は、藪内亮輔「海蛇と珊瑚」と相澤由紀子「地上の鮃」の2編。どちらも受賞作に匹敵するだけの力を感じる作品であった。
月の下に馬頭琴弾くひとの絵をめくりぬ空の部分にふれて
眼底に雪はさかさに降るといふ噂をひとつ抱きて眠りぬ
冬の浜に鯨の座礁せるといふニュースに部屋が照らされてゐる
「海蛇と珊瑚」は言葉の扱いがとてもうまい。「夜」や「冬」や「雪」や「死」といった、やや暗めのイメージで50首が統一されている。全体に静かではあるのだが、その中に感情や力が漲っている印象を受ける。
水汲みの帰りに見たる金柑のような朝日がただただ遠し
ガムテープを口に貼られて傾けるポストがほそき雨に濡れつつ
大津波きたりし後に浮かびたるトンカツ〈喜八〉の看板二文字
「地上の鮃」の作者は宮城県在住。東日本大震災を詠んだ一連である。途中で緩むことなく緊張感を保ったまま最後まで詠み切っているのがすごい。具体の効いている歌が多く、現場の様子や作者の思いがじわじわと伝わってくる。

選考座談会で気になったのは、藪内作品に対して島田修三氏が「男性ですか、女性ですか?」「小島さんは、この作者を女性だと思いますか」「こだわるけれども、これは男性ですか、女性ですか」と何度も発言していること。そんなこと選考に関係あるのだろうか。作者当てゲームをしているわけでもないのに、何とも無意味なことだと思う。

posted by 松村正直 at 00:12| Comment(0) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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