2011年10月05日

赤黄の茸

永田和宏歌集『華氏』のなかに、こんな一首がある。
茂吉食いし赤黄(あかき)の茸何なりしゼノア十月五日の夜更
永田さんと言えば知る人ぞ知るキノコ好き。以前はよくキノコ採りにも出かけていたそうだ。エッセイ集『もうすぐ夏だ』にも、「モグラの雪隠茸」「ツキヨタケ観賞会」というキノコに関する話が収められている。

さて、この永田さんの歌の元ネタは、斎藤茂吉『遍歴』にある、次の一首である。
  ゼノア。十月五日夜著
【3首略】
港町(みなとまち)ひくきところを通り来て赤黄(あかき)の茸(きのこ)と章魚(たこ)を食ひたり
1924(大正13)年、ヨーロッパ滞在中の茂吉がイタリアを旅行した時の歌。「ゼノア」はジェノヴァのことである。

「ひくきところを通り来て」がいい。海に近いあたりを歩いて来たのだろう。そして市場かレストランのようなところで、茂吉は色鮮やかなキノコと蛸を食べたのだ。

ただし、「3首略」の1首目には、「夜もすがら街の雑音(ざつおん)のつづきくるこの一室(いつしつ)にまどろみたりき」というホテル滞在の歌がある。だから、キノコと蛸を食べたのは10月5日の夜更けではなく、6日の日中のことではないかと思うのだが、どうだろうか。

posted by 松村正直 at 00:39| Comment(0) | 日付の歌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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