茂吉食いし赤黄(あかき)の茸何なりしゼノア十月五日の夜更永田さんと言えば知る人ぞ知るキノコ好き。以前はよくキノコ採りにも出かけていたそうだ。エッセイ集『もうすぐ夏だ』にも、「モグラの雪隠茸」「ツキヨタケ観賞会」というキノコに関する話が収められている。
さて、この永田さんの歌の元ネタは、斎藤茂吉『遍歴』にある、次の一首である。
ゼノア。十月五日夜著1924(大正13)年、ヨーロッパ滞在中の茂吉がイタリアを旅行した時の歌。「ゼノア」はジェノヴァのことである。
【3首略】
港町(みなとまち)ひくきところを通り来て赤黄(あかき)の茸(きのこ)と章魚(たこ)を食ひたり
「ひくきところを通り来て」がいい。海に近いあたりを歩いて来たのだろう。そして市場かレストランのようなところで、茂吉は色鮮やかなキノコと蛸を食べたのだ。
ただし、「3首略」の1首目には、「夜もすがら街の雑音(ざつおん)のつづきくるこの一室(いつしつ)にまどろみたりき」というホテル滞在の歌がある。だから、キノコと蛸を食べたのは10月5日の夜更けではなく、6日の日中のことではないかと思うのだが、どうだろうか。