昭和27年から32年にかけて書かれた鉄道などに関する19本の文章を集めたもの。昭和33年に出版された本が、今回半世紀ぶりに文庫になって刊行された。
汽車に乗ったら時刻表以外のものはあまり読まないという著者は、時刻表を読むのは「秋空を整々と運行している星の運びを知るのが楽しいように、非常に楽しいものなのである」と記している。なるほど、うまい譬えである。これまでの謎が一つ解けた気がした。
もっとも著者はいわゆる鉄道マニアとは少し違って、本書には船や車の旅の話も出てくる。要は乗り物好きということなのだろう。鉄道に対する見方もフェアであって、国鉄の新線建設について
私は汽車好きではあるが、世界的に、飛行機と自動車による交通が鉄道輸送にとって代ろうとして、既設の鉄道路線が次々に撤廃されている国が多い時、赤字を覚悟の山間僻地の新線建設は、それぞれの理由はあっても、大局的には時代錯誤である。と述べているところなど、昭和32年の文章であることを考えると、非常に時代を見る目があったというべきだろう。他にも、様々な描写の中から戦後日本の姿が見えてきて、時代の記録としてもたいへん面白い。
この本についてもう一つ大事なことは、これが若き日(31歳!)の宮脇俊三が編集を手掛けた本だということだろう。そうした意味で記念碑的な一冊かもしれない。
2011年9月25日、中公文庫、590円。