2011年10月03日

阿川弘之著『お早く御乗車ねがいます』


昭和27年から32年にかけて書かれた鉄道などに関する19本の文章を集めたもの。昭和33年に出版された本が、今回半世紀ぶりに文庫になって刊行された。

汽車に乗ったら時刻表以外のものはあまり読まないという著者は、時刻表を読むのは「秋空を整々と運行している星の運びを知るのが楽しいように、非常に楽しいものなのである」と記している。なるほど、うまい譬えである。これまでの謎が一つ解けた気がした。

もっとも著者はいわゆる鉄道マニアとは少し違って、本書には船や車の旅の話も出てくる。要は乗り物好きということなのだろう。鉄道に対する見方もフェアであって、国鉄の新線建設について
私は汽車好きではあるが、世界的に、飛行機と自動車による交通が鉄道輸送にとって代ろうとして、既設の鉄道路線が次々に撤廃されている国が多い時、赤字を覚悟の山間僻地の新線建設は、それぞれの理由はあっても、大局的には時代錯誤である。
と述べているところなど、昭和32年の文章であることを考えると、非常に時代を見る目があったというべきだろう。他にも、様々な描写の中から戦後日本の姿が見えてきて、時代の記録としてもたいへん面白い。

この本についてもう一つ大事なことは、これが若き日(31歳!)の宮脇俊三が編集を手掛けた本だということだろう。そうした意味で記念碑的な一冊かもしれない。

2011年9月25日、中公文庫、590円。

posted by 松村正直 at 00:27| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。