2011年09月10日

柳澤美晴歌集『一匙の海』

2008年に「硝子のモビール」で歌壇賞を受賞した作者の第一歌集。310首。
SUBWAYのサンドイッチの幾重もの霧にまかれてロンドンは炎(も)ゆ
早足で来る十二月教科書の俳句のなかに雪を降らせて
ほうたるになりゆく指をひとつずつなぞられている橋のたもとで
パラフィン紙ごしに詩集のタイトルのかすかに透けて朝がはじまる
フラスコにシロツメ草の挿してある研究室にきみを訪ねる
昆布漁する生徒らにアルバイト届を書かす初夏の教室
すはだかをシーツにくるむ死んだことあるひとがだれもいない世界を
手首つかまれくちづけられている夜を蓮のようにひらくてのひら
巻末に「をはり」と宣りて近代の歌集はくらき宙を閉じゆく
ここで羽休めましょうと海の辺に白き鳥居の二基立ちており
硬質で清新な抒情を感じさせる歌が多い。歌集の背後にうっすらと北海道という土地が見えてくる。「きみ」の出てくる歌や恋の歌には、他の歌と少し違う柔らかな奥行きがあってのびやかな印象を受ける。父というテーマを詠んだ歌も多いのだが、まだ十分に詠い切れていないように感じた。一首目については、跋文で加藤治郎さんが「地下鉄事故」と書いているが、これは地下鉄テロ事件のことだろう。

作者はあとがきに
歌集の発行にあわせて名字の「 」(環境依存文字のため省略)を「柳」に改めて、「柳澤美晴」という筆名にした。元々、うちの家ではこちらの「柳」を使うことが多かったため、馴染み深いというのが理由だ。
と記している。別にこだわるべき箇所ではないのだが、少し気になった。パソコンで印字できないからというのが筆名変更の一番の理由ではないのだろうか。自分で十分に納得して決めたことであれば良いのだが、はたしてどうなのだろう。

2011年8月20日、本阿弥書店、1800円。

posted by 松村正直 at 00:15| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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