2011年08月19日

永田耕衣と河野裕子

河野さんの歌集を読み返していたら、こんな歌が目にとまった。
夢の中はもつとさみしい 工場のやうな所で菊の世話して
                     『季の栞』
下句の「工場のやうな所」に妙なリアリティがあって、印象に残る。

この歌を読んで思い出したのは、次の俳句である。
夢の世に葱を作りて寂しさよ
永田耕衣の代表作の一つ。永田耕衣が生前に自分でつけた戒名「田荷軒夢葱耕衣居士」に「夢」「葱」の文字が入っていることからも、自信作であったことがうかがわれる。

そう言えば、河野さんには永田耕衣を詠んだ歌があったなと思って調べてみると、
赤ままの赤い花穂がこそばゆし而今而今(ニコニコ)の句の神戸の耕衣
誓子死に耕衣死にたる神戸かなだしぬけに九月といふ月終る
                        『家』
といった歌がある。二首目は1997年に耕衣が亡くなった時の歌。
同じ時の歌に
泥鰌の句葱を作る句晩年を長いこと生きし神戸の耕衣
という一首もある。「葱を作る句」はもちろん、先に引いた「夢の世に葱を作りて寂しさよ」であろう。このように見てくると、本歌取りとまでは言わないが、河野さんの歌には永田耕衣の句が無意識に影響したのではないかという気がするのである。

posted by 松村正直 at 00:14| Comment(2) | 河野裕子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
生前、僕は河野さんとふたりタクシーにのりあわせて頂いたことがあって、そこで「『例えば君、〜』の歌は平井弘さんの本歌取りなんですか?」と聞くと、「いや、あれは、塚本さんのねえ、『しかもなほ 雨ひとらみな 十字架を うつしづかなる 釘音きけり』 
の本歌取りなんやで。」と教えていただきました。

河野さんの葬儀にも一周忌にも出れない僕が言うのは、やや差し出がましかったでしょうか。
Posted by 森 at 2011年08月19日 02:23
本歌取りというか、影響を受けてできた一首ということでしょうね。唐突な初句の入り方という点で。
Posted by 松村正直 at 2011年08月22日 00:06
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