夢の中はもつとさみしい 工場のやうな所で菊の世話して下句の「工場のやうな所」に妙なリアリティがあって、印象に残る。
『季の栞』
この歌を読んで思い出したのは、次の俳句である。
夢の世に葱を作りて寂しさよ永田耕衣の代表作の一つ。永田耕衣が生前に自分でつけた戒名「田荷軒夢葱耕衣居士」に「夢」「葱」の文字が入っていることからも、自信作であったことがうかがわれる。
そう言えば、河野さんには永田耕衣を詠んだ歌があったなと思って調べてみると、
赤ままの赤い花穂がこそばゆし而今而今(ニコニコ)の句の神戸の耕衣といった歌がある。二首目は1997年に耕衣が亡くなった時の歌。
誓子死に耕衣死にたる神戸かなだしぬけに九月といふ月終る
『家』
同じ時の歌に
泥鰌の句葱を作る句晩年を長いこと生きし神戸の耕衣という一首もある。「葱を作る句」はもちろん、先に引いた「夢の世に葱を作りて寂しさよ」であろう。このように見てくると、本歌取りとまでは言わないが、河野さんの歌には永田耕衣の句が無意識に影響したのではないかという気がするのである。
の本歌取りなんやで。」と教えていただきました。
河野さんの葬儀にも一周忌にも出れない僕が言うのは、やや差し出がましかったでしょうか。