小池さんは短歌もうまいが散文もうまい。この本も単に詩歌の紹介にとどまらず、駝鳥の別名が「鳳五郎(ほうごろう)」であったり、犬が「ネコ目イヌ科」であるといった雑学をまじえつつ、それぞれの動物の名前の由来や生態などを自在に語っていく。わずか2ページの文章に、ほのかに哀しみが滲むのも、文章の味というものだろう。
筆者は戦後生まれだが、母親のお乳の出が悪かった。山羊を一頭飼って、山羊の乳で育てられた。青い草を食(は)んで、めえと鳴く山羊を見ると、なにかかなしい母親のような気がするのである。 「山羊」山羊という動物は、今ではあまり見かけないが、戦後間もない時期の短歌にはしばしば登場する。
村人が石菖(せきしよう)刈りて山羊を飼ふ鎌のしたより石菖はのぶ
山羊の仔は石菖食ひて声に鳴く一つかみ雪の残る昼すぎ
土屋文明『山下水』(昭和23年)
すこやかと思ふ心に旅終へて帰るわが家は山羊飼ひてをり昭和28年頃の高安家では山羊を飼っていたのである。高安さんと山羊の取り合わせは意外な感じがするが、これが戦後という時代なのだろう。
朝朝を土手に山羊つれてゆくわが子すこやけし山羊の声音をまねて
高安国世『夜の青葉に』(昭和30年)
2011年7月20日、日本経済新聞社、2700円。