パラパラ読んでいて目に付いたのは〈「飯(めし)」 歌人の食卓―高安国世の巻〉という文章。「短歌」2002年8月号に掲載されたものである。この号は家にあるので、当時この文章も読んだはずなのだが、全く覚えていなかった。
あのとき高安国世と飯を食いに行くべきであった。高校のときに読んだ『マルテの手記』にどうしても分からない所がありずっと気にかかっていたのである。高安国世といるときはいつも周りに人がいて、些細な質問をするのが憚られた。訳者に直接尋ねられる絶好のチャンスであったのに。飯と『マルテの手記』はどこから見ても繋がりようがないが、わたしにとってはこの三十年来セットになって、飯と言った高安国世のチグハグな印象と共に意識のどこかに引っ掛かったままである。河野さんがの気にかかっていたのは、『マルテの手記』のどこの部分だったのだろう。河野さんとそういう話をしたことがなかったのが残念だ。
癒えたならマルテの手記も読みたしと冷たきベツド撫でつつ思ふ2011年7月25日、角川学芸出版、1800円。
河野裕子『森のやうに獣のやうに』