潮鳴りのやまざる町に育ちたり梵字の墓の建ち並びゐて海沿いの土地の労働や暮らしの様子が、生き生きと力強く詠まれた一連である。作品の舞台は梶原さんのふるさと気仙沼市唐桑町。作品の募集は2月末締切なので、東日本大震災の前の歌である。
漁撈長と機関長と禿げ上がる頭をみせて海に礼(ゐや)せり
皆誰か波に獲られてそれでもなほ離れられない 光れる海石(いくり)
腑を裂けば卵のあふるるあふれきてもうとどまらぬいのちの潮(うしほ)
対岸もほのぼの明けて家々の暮らしのかたち見えて来たりぬ
同じ7月号には、次のような梶原さんの月例作品も載っている。
高台よりの海美しき あの海をこの海と為し避難所はありこれが「舟虫」に詠まれたのと同じ海であることを思うとき、あらためて津波の奪い去ったものの大きさに胸が痛くなる。
ありがたいことだと言へりふるさとの浜に遺体のあがりしことを
賞の選考は無記名で行われたので、震災のことは全く考慮に入っていないのだが、結果的に東北の海を詠んだ作品が受賞することになったことにも、何か運命的なものを感じる。