「塔」7月号で発表になった第1回塔新人賞の作品から、いくつかご紹介を。
清水良郎「農学校」【受賞作】
トラクターのフロントガラスを下敷きに出席表に○を書きゆく
水荒き演習林の夏川に四五本わたす赤杉の橋
教へ子がお辞儀をすればその背のギターネックも会釈するなり
交配の掛け算の式書き込みて、白き袋をかぶす稲の穂
養鱒の池をまはりて学生の列が大きな円となりたり
細かな観察力と描写力が光る一連。のびやかで牧歌的な農学校の雰囲気にも好感を持った。
北辻千展「朝(あした)降る雪」【次席】
二週齢のマウスは人なら三歳か親のまわりでぴょんぴょん跳ねる
二週間に一度だけ会う夫婦かな冷たきシルクのパジャマを羽織る
われからの手紙のごとし妹がわれに似た字で近況語る
ポスドクの研究者の日常を詠んだ歌の中に、遠距離夫婦の妻や妹を詠んだ歌が入っているのが良い。
相原かろ「枝豆拾遺」【次席】
新しい年になったが手のほうが去年の年を書いてしまった
そのむかし赤ペン先生なる人へ将来の夢告げしことあり
栞紐がふたりのすきまに降りてきて閉じようとする手までは見えた
言葉のセンスが良く、読んでいて抜群に面白い作品。軽めの詠いぶりのようでいて、ほのかな哀愁を感じさせる。