以前からずっと読みたいと思いつつ、もう品切なのだと思って古本が出るのを探していた。今回、ながらみ書房の広告を見てまだ在庫があることを知り、早速購入した。
歌論の中に引用されている歌がいい。
夕立の雲も残らず空晴れてすだれをのぼる宵の月影 永福門院
二階より君とならびて肩ふれて見(み)下(おろ)す庭のヒヤシンスかな 木下利玄
いなづまの裂きたるのちを秋天ははつか歪みて綴ぢ合はさるる 久我田鶴子
また、短歌を楽器に譬えて次のように述べている箇所も印象に残った。
口語で書いてもよい。文語で書いてもよい。平仮名で書いても、片仮名で書いてもよい。が、楽器を無理強いしてはいけない。なによりもまず、弾き手自身が、言葉のひびきそのものに素直に耳をかたむけること。そうすれば、万葉の時代の音や中世の物音が、少しだけ聞こえてくるかもしれない。それがいやな人は、もっと現代的な音を弾き込んでみてもよい。
でも、本書の白眉は、何と言っても4章の「母の花畑」と5章の「モモタロウは泣かない」だろう。「母の花畑」は瀬戸市城屋敷の実家前の畑をめぐるエッセイ。「モモタロウは泣かない」は母の入院と老人保健施設での生活を描いたもの。どちらも、とても良い文章であり、それゆえに一層の寂しさも感じる。
永井陽子がますます好きになった。
2002年5月31日、ながらみ書房、2600円。