副題に「知床から屋久島まで」とあるが、内容は全国森林紀行といったものではなく、森と人間との関わりを随想風に記していくスタイルであるので、この副題はあまり合っていない。
それはともかくとして、本書は非常に教えられること、考えさせられることの多い一冊である。例えば、森林の伐採をめぐる問題について、私たちは「開発」か「保護」かという二項対立で考えがちであるが、著者は森と人との関わりが薄くなっているという点ではそのどちらも共通していると述べる。
他にも、次のような文章が印象に残った。
(…)日本の風土のなかに生まれた森の概念区分は、里山、奥山、屋敷林、社林(やしろりん)、魚つき林というようになっている。それは森を自然の形態で区分するのではなく、森と人間との関係で区分しようとする発想である。
たとえば、自然保護の視点からこれまでの林業政策を批判するのが、旧来の方法だとすれば、新しいタイプの人々は自分が森づくりに参加し、ときに自分の仕事として参加することによって、森づくりそのものを変えていこうとする。
(…)人間の理性は、つねにその時代の精神から完全に自由になることはできず、その時代には理性的に考えて最良と思えた選択が、時代の雰囲気が変われば、誤った選択と評価される可能性を、つねにはらんでいるということである。
最後の文章は、ブナなどの森を伐採して、生産効率のよい人工林に変えていくことが進歩であるとされていた高度成長期の話を受けての結論である。これは、森に関する話だけではなく、例えば日本の戦前について考える際にも当てはまる大事な指摘だと思う。
1994年7月30日、新潮選書、1100円。