あのね私、羊の頭数をかぞえていたの。もう幾ねんも幾ばんも。
眠れないからじゃあなく私じしんを眠らせないために長い夜の列車に乗ったのだわ。
いつかの朝めざめると私の大切にしていたすべてが盗まれ、がらんどの日常に置き去りにされて泣いているの私。ひとりそんな夢をみてしまったから、つづきをみるのが怖くて。或いは先行する記憶を夢みてしまったから、夢から夢へはてしない旅をしていたの
そしたらね、ガラス戸に靠れてやっぱり同じよおに羊を数えている兵士に会ったわ。
それがおまえ だった
全部で2ページ半にわたる長い詩の、これが冒頭部分。この頃の河野里子さんについて、河野裕子さんはインタビューで次のように述べている。
キューバにサトウキビ刈りにも行ってたんですよ。私が卒業して学校の先生をしていたときだ。急にサトウキビ刈りに行っちゃうんです。サフラボランティアとか言ったらしく、世界中の若い人が集まってサトウキビ刈りに。
それでお金がないから、大阪の地下で自分のガリ版で刷った詩集を売ってお金集めをしたらしくて、そんなことを突拍子もなくやる人でしたね。
『牧水賞の歌人たちVol.7 河野裕子』
この当時、革命後のキューバを支援するための運動が、若者の間で広がっていたらしい。現在、中南米に関する著作を多く書いているジャーナリストの伊藤千尋も、学生時代にキューバでサトウキビ刈りのボランティアをしているので、時期的にちょうど同じ頃だろう。