「建築探偵」として有名な建築史家であり、今では「タンポポハウス」や「ニラハウス」などの建築家としても活躍中の藤森照信氏が、自然素材の産地や現場を求めて日本各地を旅した記録である。
宮城県石巻市の「スレート」、高知県南国市の「土佐漆喰」、奈良県桜井市の「檜皮」、岐阜県池田町の「柿渋」、沖縄県与那原町の「島瓦」など。いずれも、その土地の気候や風土と密接な関わりを持った自然素材が、今も(細々と)生産され続けている。
藤森氏のすごいところは、単にそれを見学し記録するだけではないところだ。自分で体験してみるのみならず、実際に建築家として「神長官守矢史料館」で鉄平石を用いたり、「焼杉ハウス」で焼杉を使ったりと、自然素材を生かした建築を行っている。
もっとも、この本はそうした「自然素材を使うべし!」という主義主張を声高に述べたものではない。時にユーモアも交えながら、柔らかな筆致で綴られたエッセイである。
わたしが生まれ育ったのは高部という戸数70戸ほどの一村落だが、村落内に古墳が幾つもあり、そこの天井に置かれている平石は厚くて大きいから貴重な石で、いつのころからか村人は古墳からはずしてきて、小川の橋や、庭の敷石などに再利用してきた。 (長野県諏訪市「鉄平石」)
小説やエッセイを読むと、困ったことに時には建築の本でも、英語のオークをカシと訳している場合に出くわすが、カシもしくはナラが正しい。常緑樹のカシと落葉樹のナラを同じオークで括るなんて木とともに生きてきた日本人には考えられない。共通性と言えば“堅い”の一点で、見た目も分野も用途もまるで違う。 (北海道旭川市「ナラ」)
カラー写真も非常に豊富で、読んでいて楽しい気分になる。
この人の書いたものにはハズレがない。
2009年1月30日、新建築社、2400円。