「微笑」という一連の初出は、「塔」2007年11月号。初出と歌集収録作とでは細かい異動がいくつかあるのだが(「黒き盆」が「黒き盃」になっているのは誤植か?)、大きな違いは連作の最初の一首が削られて、5首だった一連が4首になっていることである。それは
見上ぐればみな古びつつ石段の上に門ある東京の家
という一首であった。この歌が削られたことによって「東京の家」という情報もなくなり、作品としての自立度がより一層高まったように感じる。森岡貞香というモデルを離れて、普遍性のある作品になったということかもしれない。
最後に、森岡貞香の遺歌集『少時』から、紅茶の歌を二首。
あたらしき日を吾は持たずブランデー滴らせ紅茶かたはらに置く
紅茶の葉はふたりぶん否ひとりぶん 戀ふれば來らずといふ豫想
森岡貞香『少時』