福島、東京、アブダビという三つの都市の表情がよく描かれている。「水」に関する歌が多く、この歌集は「水」をめぐる物語なのかもしれないと思う。
星の数ほどドアが並んで(誰もいない)仕掛け絵本のようだ、東京
銅版画家に削り取られし東北の雪はたちまちにとけてしまえり
川よお前を見つめて立てば私の身体を満たしゆく桃花水
海を知らぬ少女でありし日の我よ金魚の墓をいくつもたてて
Abu Dhabi は蠍のかたちおおらかに抱かるる海はひたすらに凪ぐ
「オハイオウ」が「おはよう」になる瞬間を見し日本語の授業、二回目
教室に「おいのりのしかた」掲示され描かれし子が正しく祈る
噴水の多き街なり水の束を透かして遠き日輪を見る
あなおとなしき駱駝の腹に浮きでたるホースのように太き静脈
もしかしたらここは大きな砂時計の中かも知れず 砂にまみるる
全体的な印象として、具体を詠んだ部分は自由でのびやかなのだが、観念の部分がそれを狭くしてしまっている気がする。「細長きものを見つければ振り回す子どもとはいつもひかる円心」という一首も、上句の具体はとても面白いのだが、下句の観念がそれをまとめ過ぎているのではないだろうか。
2010年10月1日、角川書店、2571円。
多岐にわたる本の紹介は、ウレシイです。
齋藤芳生さんの歌集は『桃花水を待つ』の誤植ですよね。
お節介ながら気になりましたので…
歌集タイトルの漢字が間違っていました。すみません。
訂正しておきました。ご指摘ありがとうございます。
引用された短歌のうち、上から3首目にも
歌集名と同様の誤植がありましたので、お知らせいたします。
注意不足ですみません。
ご指摘ありがとうございました。