副題は「森の獣医さんの診療所便り」。著者の竹田津さんは北海道に住む獣医師、写真家、エッセイストである。以前函館に住んでいた頃に、この人の書いた『北海道動物記』『北海道野鳥記』という二冊の本を読んだことがあり、その印象を覚えていて、今回書店で見かけたこの本を買うことになった。
カラー写真が約100点も載っていて、写真を見るだけでも十分楽しい。登場する動物はタヌキ、ノネズミ、アカゲラ、ネコ、シマリス、モモンガ、カモ、キタキツネなど。いずれもケガをしたり保護されたりして、竹田津さんの元にやって来た動物たちだ。
獣医師というのは不思議な職業である。/助けた患者から感謝されることは、まずない。
患者たちの餌集め。助けるというが、餌になる生き物の命を止める。/私たちは助けるという名の命の移転作業を続けているに過ぎない。
いつの頃からか、入院患者に名をつけなくなった。名は情を呼ぶ。
野生の生き物を保護して、治療して、リハビリもして、野生に帰す。けれど、自然は単純ではない。ようやく助かったと思った命が、あっという間に死んでしまうこともある。牛舎に寝ている猫が牛に押し潰されて死んだり、保護したカモの雛が溺死したりもする。
そんな出来事を記す時にも、竹田津さんの文章は決して感傷におぼれない。それでいて、いつもやさしい。
2007年3月20日、新潮社「とんぼの本」、1400円。