2011年04月24日

二冊の歌集

河野裕子の第一歌集『森のやうに獣のやうに』(1972年)を読んでいると、しばしば永田和宏の第一歌集『メビウスの地平』(1975年)の歌を思い出す。例えば、以下のような感じ。Aが『森のやうに…』、Bが『メビウス…』である。
「ゆたゆたと血のあふれてる冥い海ね」くちづけのあと母胎のこと語れり
あなた・海・くちづけ・海ね うつくしきことばに逢えり夜の踊り場

青年は背より老いゆくなだれ落つるうるしもみぢをきりぎしとして
背を抱けば四肢かろうじて耐えているなだれおつるを紅葉と呼べり

海くさき髪なげかけてかき抱く汝が胸くらき音叉のごとし
重心を失えるものうつくしく崩おれてきぬその海の髪
駆けてくる髪の速度を受けとめてわが胸青き地平をなせり

こんなふうに二首を対にして鑑賞するのは邪道かもしれないが、相聞歌のやり取りのようにも思われて、私には面白い。もっとも、こうした見方は既に岩田正が『現代短歌 愛のうた60人』で述べていることでもある。岩田は『森のやうに…』と『メビウス…』からそれぞれ五首ずつを引いて、「呼応して歌いあっているわけではないが、(…)あきらかに呼応しあって歌っているようにみえる」と記している。
posted by 松村正直 at 00:43| Comment(0) | 河野裕子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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