2011年04月23日

原武史 『鉄道ひとつばなし3』


講談社の月刊情報誌「本」連載の人気エッセイの第三弾。今回も鉄道や団地、近代日本史をめぐって、いくつもの興味深い内容が書かれている。

例えば、1977年に開成高校が東大合格者数で全国トップに躍り出た理由として、首都圏の鉄道事情を挙げる「東大合格上位校と鉄道」。
(1969年)十二月に営団地下鉄(現・東京メトロ)千代田線の大手町―北千住間が開通し、西日暮里駅が開業した。(…)そして七一年には、山手線と京浜東北線の日暮里―田端間にも西日暮里駅が開業するとともに、千代田線が常磐線の我孫子まで乗り入れるようになり、山手線、京浜東北線、常磐線沿線に住む中学生や高校生が通いやすくなった。(…)開成は東京都ばかりか、埼玉県や千葉県に住む優秀な児童や生徒までも取り込んだのだ。

なるほど、面白い指摘だと思う。確かに中学・高校生は大学生と違って下宿することはなく基本的に自宅から通うわけだから、通学事情が学校選択にも大きく関わってくるわけだ。これは、自分の経験に照らしてみてもよくわかる。

筆者の鉄道に対する見方がよく表れているのは「廃線シンポジウム」という文章。これは全国で廃線になった路線たちが集って議論をするという架空のシンポジウムの記録である。
議長 地方の窮状が目に見えるようです。新幹線や高速道路や空港ができて、地方は便利になったように見えながら、結局一番得をしているのは東京だというわけですね。戦後は地方行政のレベルでも、知事の官選を民選にするなど、明治以来の中央集権の構造を改めたはずなのに、鉄道的に見ると、東京一極集中がかえって強化されているのは皮肉なことです。

先日、4月19日の朝日新聞の朝刊に原武史さんのインタビュー記事が載っていた、東日本大震災に関連して「新幹線優先の復旧でいいのか」「記憶と深く結びつくローカル線をまず走らせて日常を回復せよ」という内容のもの。同じ日の社会面には「東北新幹線30日ごろ全通」という記事が載っている。この時期にこうした発言をするのは、なかなか勇気が要ることだと思うが、そのぶれない姿勢に私は好感を持つ。

2011年3月20日、講談社現代新書、740円。
posted by 松村正直 at 00:31| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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