あかあかとまなこをあげて昇り行く特殊潜航艇「月読(つきよみ)」は。
岡井隆『親和力』
この一首を含む一連には、次のような詞書がついている。
北川透氏の『魔女的機械』(弓立社版。昭和五十八年五月三十日開板)に収める「魔女的機械」他に唱和する三十一音詩によるカノン(断片)
では、『魔女的機械』とはどのような詩集なのか。この詩集には全部で13編の詩が収められているが、それらが緩やかにつながっており、連作のような形になっている。キッチュで猥雑で、それでいて非常に生々しく、想像力をかき立てる作品である。
そこに繰り返し登場するのが「特殊潜航艇」なのだ。13編のうちの1編である「魔女伝説―いとしのサリーちゃんへ」という詩の冒頭部分を引く。
風呂屋へ出かけよう
洗面器などかかえて外へ出ると
黒っぽい謎の物体が
あかね色の上空をゆっくり旋回しながら降りてきた
あっ特殊潜航艇だ
(以下略)
岡井の一首は、この詩を踏まえていると読んでもいいだろう。北川の「ゆっくり旋回しながら降りてきた」特殊潜航艇に対して、岡井は「あかあかとまなこをあげて昇り行く」特殊潜航艇を詠んだことになる。