あかあかとまなこをあげて昇り行く特殊潜航艇「月読(つきよみ)」は。
岡井隆『親和力』
「月読」は月の神、または月そのものを指す言葉。旧日本軍の艦艇には「八雲」(巡洋艦)や「雪風」(駆逐艦)といった命名が普通にあったから、「月読」という風流な名前があってもおかしくはない。
岡井隆は歌集のあとがきにこの歌を引いて、
これなんか、月の出の景色を詠んだ風流な作品ととってもらって、なんらさしつかえない。
と記している。なるほど、〈特殊潜航艇「月読」〉=月、と読めば、風流かどうかはともかく、そうした歌として読むことが可能である。その場合、念頭にあるのは次の茂吉の歌かもしれない。
わがこころいつしか和みあかあかと冴えたる月ののぼるを見たり
斎藤茂吉『ともしび』(1950年)
この歌になると、本当に「月の出の景色を詠んだ風流な作品」である。韻律も伸びやかで、茂吉らしい名歌と言っていいだろう。もっとも、岡井の文章には韜晦が含まれているのであって、あとがきの文章を素直に受け取るわけにはいかない。「あかあかと…」の一首が歌集では「共同詩」と題した章に入っていることからもわかるように、これは北川透の詩集『魔女的機械』に触発されて生まれた作品なのである。