まよひこみたるアザラシを人拝むかるくタマチャンなどと言ひながら
満月の夜の河口に浮上せり特殊潜航艇アザラシは
タマチャンに食へよと投ぐるホタテ貝ぽちやんぽちやんと川に落ちたり
この歌集には2〜3首の歌のまとまりが多数収められているが、この3首は「103 騒動」という小題のもの。そう言えば、多摩川にアザラシのタマチャンが迷い込んで、多くの見物客を集めていたことがあったなあと思い出す。当時、テレビニュースでもさんざん取り上げられていた。そのタマチャンである。
二首目は水中の移動に適したアザラシの体型を潜航艇に見立てた歌である。潜航艇というのは、とりあえず潜水艦の小型のものと考えればいいだろう。もっとも、この歌に特殊潜航艇が登場するのは、岡井隆の歌の本歌取りという理由の方が大きいにちがいない。
あかあかとまなこをあげて昇り行く特殊潜航艇「月読(つきよみ)」は。
岡井隆『親和力』(1989年)
小池光は『鑑賞・現代短歌 岡井隆』の中で、秀歌三百首選にこの「あかあかと…」の歌を選んでいるくらいなので、当然この歌を踏まえていると言っていいだろう。