コレクション日本歌人選19。
著者は国文学者、文芸評論家、電気通信大学教授。
塚本邦雄の作品50首を取り上げて、50のキーワードに沿ってその鑑賞を記した本である。「漢字は、文化の女神が着る衣裳」「『變』は、新しい音律から始まった」「日本人なら『源氏物語』くらい読め」「比喩の衝撃力が、虚構を現実に変える」といった題のもとに、正字正仮名の使用、語割れ・句またがりの導入、古典への親炙、暗喩の駆使といった塚本短歌の根幹が解き明かされていく。
単なる秀歌鑑賞とは違って、塚本の遺した手帳やノートに基づいた伝記的な事実の解説や筆者との個人的なやり取りなども記されており、評伝的にも読める内容となっている。塚本の弟子である著者の塚本に寄せる尊敬や愛情が十二分に感じられるのも、本書の特徴であろう。そして、ところどころに、偉大過ぎる師を持った弟子の哀しみのようなものも垣間見える。
私は二十歳頃から塚本に師事した弟子であるが、塚本の周囲にいる青年歌人たちの多くが美貌の持ち主であることと、何人か体育会系的な好漢が交じっていることが、ずっとコンプレックスの種だった。
『玲瓏』創刊の予告を見た瞬間に、その準備号から勇んで参加した。すると、「人間は、自分の才能を知るべきです、これからは実作者ではなく、研究者として生きてゆきなさい」と助言された。
歌の才能の乏しい私(島内景二)を、塚本が弟子の一人に加えたのは、ひとえに、私が東京大学大学院博士課程で古典文学を研究中の学徒だったからである。
本書は塚本短歌の成り立ちや短歌史的な意義を理解する上で、絶好の入門書になるだろう。コンパクトでしかも手頃なお値段となっており、ぜひ多くの方に読んでいただきたい一冊である。
2011年2月28日、笠間書院、1200円。