2011年04月12日

早川茉莉編 『玉子 ふわふわ』


玉子をめぐる話のアンソロジー。37人の作家、エッセイストらの文章が収められている。森茉莉、武田百合子、林芙美子、池波正太郎、東海林さだお、吉田健一、北大路魯山人、向田邦子、田村隆一、田辺聖子など。

登場する料理は、オムレツ、目玉焼き、卵かけご飯、玉子焼きなど、シンプルなものがほとんど。それでいて、誰もが玉子に対する強い思い入れを持っている様子が伝わってくる。
ぼくが小学生のころは玉子はゼイタク品であった。杉並のおばの家へ行くと、玉子かけ御飯を二杯、三杯と食べさせてくれるから、ぼくは杉並のおばがニワトリの化身ではないかとながめたものであった。  /嵐山光三郎「温泉玉子の冒険」

卵は、栄養に富み、精力を増す食品というのが古くは最も一般的な見方だった。(…)そういう「卵信仰」みたいな感じは、私たちの少年時代までは色濃く残っていた。たとえば、そのころ風邪を引いたりして、食欲もなく熱に浮かされてふせっていると、母親が「卵の皿焼き」というものを作ってくれた。  /林 望「ふわふわ」

私自身は、卵が大量生産されて「物価の優等生」になった時代に育ったので、卵に対する格別な思い入れは持っていない。それでも、こうした文章を読むと、卵が貴重品だった時代のことが何となくわかる。それは卵のあの独特な形や、命を丸ごと食べているというイメージとも関係したものであったのだろう。
卵かけごはんを二杯かつこめり滋養じやうと呪文をかけて  河野裕子『歩く』

2011年2月10日、ちくま文庫、780円。
posted by 松村正直 at 15:03| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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