2011年04月09日

「京大短歌」17号

学生10名+OB・OG16名の計26名の15首+エッセイを掲載。他に、評論2編、往復書簡、一首評など。全104ページというボリュームで、私が持っている「京大短歌」の中では一番厚い。

作品は全体的に少し凝り過ぎな気もするのだが、それも学生短歌の持ち味である。良いと思った歌が比較的シンプルなものになるのは、私の好みのせいだろう。
壮大な嘘をついたね おるがんにもたれている子の両手まっくろ /延 紀代子
西暦はあまねく人の没年と花瓶の細き影を見ており /大森静佳
護るため鉄条網は張らるるをその棘先に光る雨滴は /藪内亮輔
日記では二人称にて呼ぶひとを思えばどんな陸地も水辺 /笠木 拓
感情と言葉が一致しない日に百葉箱の白さを思う /矢頭由衣
洗濯機にたくさん入れる洗剤のさみしい人になりますように /吉田竜宇
退職を決めし同僚と向き合へりかもなんばんに鼻を温めて /澤村斉美
萩だろうようやく暮れ来し水に乗りすこし明るみながらゆくのは /中津昌子
遠空ゆふりくる雪は肉(ししむら)を持たねば夜の屋根に吸われつ /島田幸典
これからの春にて出会ふ木もふくめ桜のことはすべて思ひ出 /林 和清

大森静佳「大口玲子の〈起伏〉」、藪内亮輔「短歌の二重螺旋構造」は、ともに内容的にも分量の上でも本格的な評論。どちらも論理展開には異論を差し挟む余地があって、十分に論じ切れているとは言えないが、文章から書き手の「本気」が感じられて好ましく思った。これを手始めに、どんどん文章も書いていったらいいと思う。

往復書簡は、男女二人のメンバーが架空の物語という前提のもとで、手紙+短歌のやり取りをするというもの。ちょっと気恥ずかしい感じもする企画なのだが、これがけっこう良かった。「架空」とは言いながらも、どこかに「本当」の部分が透けて見えてくるように感じられた。
posted by 松村正直 at 00:26| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
松村さん
さっそく感想を書いてくださってありがとうございます。
私と藪内さん、はじめて評論に挑戦しました。
今後、歌にも文章にも磨きをかけていけたらと思います。
Posted by 大森静佳 at 2011年04月09日 00:59
評論の文章、しっかりしていて良かったです。
大口玲子さんの歌、いいですよね。
若手〜中堅の女性歌人の中で一番だと思います。

今度「塔」に書いていただく評論も期待してます。

Posted by 松村正直 at 2011年04月09日 01:31
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