2011年04月06日

阿辻哲次 『戦後日本漢字史』


改訂常用漢字表の作成にも参加した著者が、戦後日本の国語政策・漢字政策の変遷を記した本。昭和21年の「当用漢字表」から昭和56年の「常用漢字表」、そして平成22年の「改訂常用漢字表」へと至る歴史の流れがよくわかる内容となっている。

漢字をめぐる様々な困った話も載っていて、雑学的な意味で面白い。例えば、当用漢字表に入らなかった漢字の言い換えについての話。
同じようにいまでは社会にすっかり定着した有名な例に、「推理小説」がある。
「当用漢字表」に「偵」という漢字が入らなかったので、それまで使われていた「探偵小説」という表記が使えなくなった。それで「探偵小説」の言い換えとして「推理小説」ということばが作られた。

あるいは昭和22年12月の「戸籍法」の施行によって、新しく付ける名前には当用漢字しか使えなくなった話。
もともと「当用漢字表」は終戦直後の占領軍主導の政策で決められた漢字制限のための規格だから、収録されている漢字の種類が少なすぎるという批判が当初からあった。さらにくわえて、そこには「弘」や「宏」、「昌」、「彦」のように、これまでの日本人の名前にはごくふつうに、それも頻繁に使われていた漢字が含まれていなかったことも大きな問題だった。

つまり、永田和宏(昭和22年5月生まれ)という名前も、昭和23年生まれであればあり得なかった名前ということになる。こうした状況が、昭和26年の人名用漢字別表の採用まで続いたのであった。

明治以降の日本の国語をめぐる様々な問題と短歌との関わりについては、一度自分なりにまとめて文章を書きたいと考えている。考えているだけでは仕方がないので、今年あたり何とか取り掛かりたいと思う。

2010年11月25日、新潮選書、1200円。
posted by 松村正直 at 14:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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