副題に「旧字・俗字・略字の漢字百科」とあるように、狭義の異体字だけでなく漢字のさまざまな字体について、その歴史的な経緯や現状を詳しく記した本。著者はJIS規格(第3・第4水準漢字)の開発に関わった方。
正字と俗字、その他の異体字が混在した一見無秩序な日本語表記の世界。その混乱を解決しようとする努力が、「漢字制限」と「字体整理」でしたが、押さえつければどこからか漏れ出すのが世の習い。
とあるように、漢字を秩序立てて整理しようという試みはこれまで何度も行われてきたものの、いまだに整理できていないのが現状。というより、完璧に整理しようと思うのがそもそも間違いなのだろう。ある程度の差異や揺れ幅、不統一を許容する方がむしろ合理的なようだ。
口語・文語の問題にも似ているのだが、手書きの字体と印刷字体に差が生まれるのは当然のこと。手書きの字体が省略などによって変化しやすいのに対して、印刷字体は一度決まれば変化しない。その差を埋めていく作業は、いたちごっこにも似ている。
また、戦後の旧字から新字への移行も、いくつもの問題を抱えている。この移行は当用漢字字体表に記載された一部の漢字についてだけ行われたものであった。
A→a (旧字→新字)
B→B (変更なし)
c→c (変更なし)
これが、やがて字体整理を表外の漢字にまで当て嵌めた拡張新字体「B→b」を生み出す。さらには、歴史的に存在しなかった拡張旧字体「C←c」までも生み出してしまうという奇妙な現象を引き起こしている。
読めば読むほどその混乱ぶりに頭が痛くなってしまうのだが、それをむしろ豊かさとして楽しむようなゆとりが必要なのかもしれない。
2007年7月20日、河出文庫、640円。