2011年03月24日

翻訳のむずかしさ

『近江八景の幻影』の邦訳は、地元出身の二人の訳者の方の熱意の賜物である。一方で、お二人ともドイツ文学や翻訳の専門家ではない。そのために、読んでいて気になる部分が散見する。ドイツ人が初めて見る日本について書いた文章が、あたかも元々知っていたかのように訳されていることがある。

例えば、直訳すれば「竪琴の形をした琵琶湖」となるべき部分が「琵琶の形をした琵琶湖」となっている。これには訳者の注が付いていて「竪琴の形をしているというのでは日本の読者に奇異な感じを与えるので」とあるのだが、それは心配し過ぎというものだろう。ドイツ人が「琵琶」という言葉を使う方がよっぽど奇異な感じを受ける。

また、次のような部分がある。
古い家のなかは暗く、褐色の梁がやたら多い。竈と飼葉桶のあいだに石の柵で囲んだ湧水がある。そのために古壁に囲まれた宿の部屋が冷え冷えしている。(…)農作物の商いと畑仕事を活計(たつき)としていたこの家の家族は、水場のまわりで井戸端会議をしながら百年間も気楽に暮らしてきたのだ。

旅の途中の民家で休憩をした場面である。土間にある井戸のことを描いているのだが、ここでは「井戸端会議」という言葉が気にかかる。井戸のことを「石の柵で囲んだ湧水」と述べていたドイツ人が、その直後に「井戸端会議」という言葉を使うのは、やはり変であろう。

翻訳というのは難しいとつくづく思う。
posted by 松村正直 at 18:46| Comment(0) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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