2011年03月19日

吉本隆明『詩の力』

吉本 隆明
新潮社
発売日:2008-12-20


構成/大井浩一・重里徹也。
詩、俳句、短歌、歌謡曲など様々な言葉をめぐって吉本隆明が語った内容を、毎日新聞の記者が聞き取って構成した一冊。新聞連載をまとめた『現代日本の詩歌』(2003年、毎日新聞社)を改題のうえ文庫化したもの。

短歌関係で取り上げられているのは、塚本邦雄、岡井隆、俵万智、佐佐木幸綱、寺山修司、近藤芳美。印象に残ったのは次のような部分。
五・七・五の上句と七・七の下句との間に深い息継ぎ、区切りのある形が短歌の特徴であるのに対し、例えば正徹の歌集『草根集』などの作品では、もう上句と下句の間に深い思い入れはなくなって一つに連続している。三十一文字ののっぺらぼうといっていいくらい、上から下まで一呼吸でつながる形になってしまった。これが和歌の壊れる始めだという印象を強く与える。

同じことが戦後派の詩や短歌、俳句にもいえる。主観性を中心にした作品はどうしても多様性に欠けるため、今では単調なものに、主観を一行に書き流しただけのように読めてしまうのだ。しかし、それらを戦後間もなくの世相の中に入れて見ると、全く意味合いが違ってくる。

いずれも示唆に富む指摘だと思う。短歌を他のジャンルも含めた言葉の表現の一つとして捉えること、その中から逆に短歌ならではの特徴というものも見えてくるのだろう。

新聞連載という性格のために、編集サイドの要望に応じたと思われる内容も含まれているのが若干気になる。例えば「宇多田ヒカル」の回などは、冒頭に「宇多田ヒカルさんの歌をじっくりと聴いたことはない。だから、歌詞だけを見て感想めいたことをいうしかない」とあって、何だか可哀想だ。

2009年1月1日、新潮文庫、362円。
posted by 松村正直 at 01:10| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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