家に興味がある。自分で家を建てたいとは思わないが、家についてあれこれ考えるのは楽しい。町を歩いていて、ちょっとレトロな家などを見ると心がなごむ。
日本近代住宅史を専門とする著者が、間取りを中心に日本の家の変遷について解説した本。「戦前は約八割が借家で、まだまだ借家が一般的だった」とか、日本に水洗トイレがなかなか普及しなかったのは「汚水は商品として扱われ、汲み取るほうから逆にお金をいただいていた」名残であることなど、これまで知らなかったこと、気付いていなかったことが数多く載っている。
家屋の移り変わりには、もちろん家族のあり方や制度の変化も関係している。例えば、1902(明治35)年に出版された『家庭の快楽』という本を紹介して、著者は「当時の流行語として紹介されている“団欒”という言葉が再三使われている」「一九〇〇(明治三三)年前後には家族の努力の結晶としての家族団欒という行為が重視され」ていたと述べる。
こういう話を読むと、坪内稔典の『正岡子規』に引かれていた次のような子規の文章の意味も初めてよくわかる。
今迄の日本の習慣では、一家の和楽といふ事が甚だ乏しい。それは第一に一家の団欒といふ事の欠乏して居るのを見てもわかる。一家の団欒といふ事は、普通に食事の時を利用してやるのが簡便な法であるが、それさへも行はれて居らぬ家庭が少くは無い。 (『病床六尺』明治35年)
これなども、一見古めかしいことを述べているように思えるが、実は当時の最先端の考えを反映したものであったのだ。
明治から大正、昭和にかけての家の変遷と今後の展望がよくわかる好著であるが、家族のあり方についての著者の価値観がやや出過ぎている部分があるようにも思う。「男が男として凛としていた姿」「女も女の空間で凛としていた様子」「母親と子どもの連携による子ども文化が蔓延したことによる弊害」といった言い回しには、(これは世代的なものも大きいのだろうが)少し押しつけがましさを感じた。
2005年1月20日、光文社新書、740円。