2011年03月05日

河東碧梧桐著 『子規を語る』

河東 碧梧桐
岩波書店
発売日:2002-06-14


虚子と並んで子規門下の双璧とされる碧梧桐が、子規に関する思い出を記した一冊。子規が十三、四歳、碧梧桐七、八歳の初対面の場面から始まって、明治二十八年に至るまでの記録である。当時の手紙や日記、句会の原稿などが引用されていて、資料的な価値もすこぶる高い。

例えば、「月並」という言葉が〈平凡、陳腐〉の意味で使われるようになったのも、子規たちの間から始まったことであるらしい。
この言葉が、その後子規の俳句に帰依する人々の間に伝播し、更に社会一般に押しひろげられて、明治の新語として迎えられる確定的のものとなった。ただ一語の「月並」ではある、が、その伝播性はやがて子規の人格芸術、言いかえれば子規宗そのものの社会への湿潤性を標識するものと言ってもいいのだ。

本書はまた、子規だけでなく、子規の周りに集った非風、飄亭、古白、虚子、漱石といった人々とその交流を、鮮やかになまなましく描き出している。愛憎半ばするがゆえに美しい師弟関係の姿というものを十二分に感じることができる好著。
(…)碧梧虚子の中にても碧梧才能ありと覚えしは其のはじめの事にて、小生は以前よりすでに碧梧を捨て申候、併し虚子は何処やりとげ得べきものと鑑定致し(…)

明治28年の飄亭宛の子規の手紙である。これを、碧梧桐はどんな気持ちで引いたのだろう。子規の死後、碧梧桐は虚子と袂を分かち、新傾向俳句から自由律へと進んで行く。

2002年6月14日、岩波文庫、660円。
posted by 松村正直 at 06:29| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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